エンバーミングはご遺体の長期的・衛生的な保全を可能にする技術をさします。
それを行えるのは、認定資格を持ったエンバーマーと呼ばれる専門スタッフです。
このコラムでは、エンバーミングとは何か、またエンバーマーの仕事について・必要な資格などを解説します。
目次
エンバーミング(「遺体衛生保全」)とは、ご遺体に殺菌消毒・防腐・修復・化粧などを施して故人を生前の姿に近づけつつ、ご遺体を長期的・衛生的に保全することもできる技術のことです。
ご遺体を殺菌消毒したのちに体内に残っている血液と保全薬を入れ替えることで、敗血症などの感染症を防ぎ、きれいな姿や表情を保ちます。
エンバーミングは、専門の資格をもつエンバーマーによって行われます。施術にかかる時間は約2~4時間ですが、湯かんのように立ち合うことはできません。
エンバーミングを行うことで、10日から2週間程度ご遺体は安全に保たれます。そのため、故人様とゆっくりお別れをすることが可能になります。殺菌・消毒を行うため衛生的にも安全なので、ご遺族の感染症の心配もありません。
エンバーミングはドライアイスを用いることなく、自然な状態でご遺体を保全できる点が最大のメリットになりますが、同時に遺されたご家族やご友人の心を癒すグリーフケアの一面もあります。修復の処置やお化粧を施すことによって、生前の安らかなお顔を取り戻したきれいな故人様の姿で最後の時を見届けることができるため、お別れの悲しみを和らげることができます。
エンゼルケアとは、亡くなられた後病院やご自宅で行われる「死後処置」や「死後ケア」のことを指します。
一般的には医療従事者(もしくはそれに準じる方々)が行う場合が多く、お身体をタオルで拭いたり、お口や目のケアやお閉じ、綿詰め、お着替え等を行います。
エンゼルケアは明確な定義があるわけではありませんが、ご遺体の表面的な処置のことをいいます。一方エンバーミングは殺菌消毒や防腐の処置など体内に及ぶという点でエンゼルケアとは異なります。
また、エンゼルケアと違い、エンバーミングは専門の資格がないと行うことができません。
死亡診断書(死体検案書)を確認した上で、依頼書によりご遺族に説明し同意を得ると共に要望を伺います。
お身体をエンバーミングセンター(処置室)へ移送し、全身を洗浄・消毒、口ひげ・あごひげのお手入れ、目や口をお閉じするなどの処置を行います。
お身体に最小限の切開をし、動脈よりエンバーミング薬剤を注入し、静脈より血液を排出します。その後ご遺族の要望に基づき必要かつ可能な修復を行い、切開した部分を縫合した後、再度全身・頭髪を洗浄します。
この工程により、お身体の衛生的な保全が叶います。場合によってはご依頼の衣装をお着せすることも可能です。
施術が終了したら、ご自宅やご安置施設へ移送・ご安置します。
エンバーミングの基本費用の相場は、約15万円から25万円ほどと言われます。
IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)が定めた基本料金をもとに算出されるもので、事業者間で大きな差はありません。
場合により、こちらの基本費用にご遺体の搬送費や安置費、お身体の状態による追加の修復費が加わります。
ご遺体を海外に輸送する・海外から輸送することを検討している場合には、航空運賃や航空機用お棺代金、諸手続き代行費用がさらに必要になり、総額費用は約70~150万円となるでしょう。
エンバーミングのSECでは、エンバーミングの幅広い認知・普及を目指し、金額を極力抑えエンバーミングをご提供しております。
約15万円から25万円の相場に対して、税込143,000円で施術を承れる環境が整っております。
また対象の斎場・葬儀場で葬儀を行った場合は 安置場所とエンバーミングセンター間、往復の搬送費を含めエンバーミング料金を税込143,000円で施術いたします。
エンバーミングが必要な場面について、主に4つ挙げられます。
一つずつ詳しく解説いたします。
遠くから親族をお呼びする、お別れの時間をゆったりと持ちたい、葬儀場や火葬場が混み合っていて予約が取れない等の事情により、亡くなってから火葬するまで日程が空いてしまう場合は長期保全でご遺体の腐敗や顔色の悪化を防ぐことができるエンバーミングをお勧めできます。
日数比例で費用が増すドライアイス・保冷庫保管による安置に比べて費用を抑えられるというメリットもあります。
ご遺体を海外輸送する場合、エンバーミングを受けていなければなりません。
安全上の観点から、機内にはドライアイスを持ち込むことができないためです。
必然的にエンバーミングをしなければならないことになりますので、注意が必要です。
やつれた表情や損傷を綺麗に修復することで、対面する家族や親戚、友人の悲しみを和らげることができます。
実際に施術を選ばれた方からは、「眠っているような自然な表情に驚いた」「会葬者にも生前と同じような面影の故人と再会してもらえた」という声が挙げられています。
生前のお姿に近い故人様と穏やかなお別れの時間を過ごしたい方は、エンバーミング検討してみてください。
結核などの感染症にかかったご遺体であっても、エンバーミングによる消毒・殺菌処置後は公衆衛生上安全になります。
その結果、免疫力の弱いお子さまやご年配の方も安心してご遺体に触れることができ、十分なお別れの時間を持てるようになるのです。
通常のご葬儀に近い形でのお別れが可能となるため、感染症で亡くなった故人と対面してお別れを希望する場合エンバーミングをおすすめします。
エンバーミングの歴史は古代エジプトまで遡ります。古代エジプトでは死者の魂が宿る場所として遺体を保存していました。保存方法は主要の臓器を摘出し、薬用の植物を詰めていました。その後近代にかけてヨーロッパで技術が発展し、アメリカの南北戦争での遺体の長距離輸送をきっかけに広く知られるようになりました。
日本では阪神淡路大震災以降浸透し始め、現在日本では年間約6万人の方々が施術を受けています。
エンバーマーは、エンバーミングを行う専門スタッフのことです。
ご遺体にお着替えやお化粧をして身だしなみを整えることは元より、専門技術にて消毒・防腐・修復を行うことにより、衛生的なお別れを可能にします。
日本では遺体衛生保全師と呼ばれることもあります。
近年需要が急速に高まっている職業ですが、聞きなじみのない方も多くいるのではないでしょうか。
欧米では、火葬を行う人が増えたものの、宗教上の理由から主流は土葬であり、お身体を保全できるエンバーミングやエンバーマーという職業が広く浸透しています。
対して火葬が主流の日本では、ご遺体をそのままの状態で保存する需要や、修復をしてお別れをする習慣がなかったため、エンバーミング自体が新しい技術として知られ始めているところです。
日本においてエンバーマーの認知度が低い理由はここにあるでしょう。
日本でエンバーマーとして仕事をするには、一般社団法人日本遺体衛生保全協会(以下IFSA)認定の資格を取得する必要があります。
これは国家資格ではありませんが、エンバーマーに求められる知識や技術を持っていることの証となります。
資格取得のための準備としては、専門学校での修業、もしくは海外留学が考えられます。
現在、IFSAの認定を受けているエンバーマーの専門学校は、神奈川県平塚市にある日本ヒューマンセレモニー専門学校のみです。
ここでは、エンバーミングの実習はもちろん、ご遺体の衛生保全に必要な解剖学や微生物学などの知識から、ご遺族の心情を理解するためのグリーフケア、ご葬儀の実務を含む葬祭学まで幅広く学びます。
2年間の修業を終えたのち、IFSAの資格試験を受けて合格すると資格を得られます。
※日本ヒューマンセレモニー専門学校HPはこちら
日本で学ぶほか、本場である欧米に留学するという選択肢もあります。
例えばアメリカでは、葬儀の大学で学び、国家資格であるフューネラルディレクターやエンバーマーライセンスを取得できます。
資格取得のために勉強しながら、現地のご葬儀の実際を肌で感じることもできるでしょう。
火葬中心の日本でエンバーミングが注目を集めている中、エンバーマー不足が課題となっています。
IFSA認定のエンバーマーは2022年時点で約296名です。
対して、エンバーミングが行えるセンターは2022年時点で全国に80施設あり、この10年で約2倍に増加しました。
施行件数も右肩上がりに増加しているにもかかわらず、それをまかなえるだけの十分なエンバーマーの人手は足りていません。
全国の施術件数の推移(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会調べ2021年) ※2021年施術実績59,440件
需要増加の背景には、以下の2つが挙げられます。
①葬儀の増加によって火葬まで日が延びてしまう
②故人様が安らかな状態でお別れしたいと思う遺族の心情
一つずつ簡単に解説していきます。
年々葬儀件数が増加していますが、火葬場の新設は大変に難しく、亡くなってから葬儀や火葬までの日程が延びてしまうことが多くなっています。
その間ご遺体を衛生的に保つために、エンバーミングを依頼するご遺族が増加しています。
ほとんどの場合でドライアイスを使う必要がなくなり、お身体を保冷庫に預ける必要もなくなります。
火葬までの日程の長短にかかわらず、故人様を生前と変わらない姿で送り出してあげたいと考えるご遺族が増えています。
背景として、元々縮小傾向だった葬儀の規模がコロナ禍でより小さくなり、会葬者のおもてなしや祭壇など対外的なものに充てられていた時間や経費が故人様自身へのケアや近い親族での十分なお別れのために充てられるようになったことが一因に挙げられます。
ご遺族はもちろん、ご縁の深かった方々も安らかな状態の故人様を記憶に刻むことができるため、その後のグリーフケアにつながるというメリットもあります。
そのほか、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う需要も見られます。
病院や施設の面会制限で長らく会えていなかった親戚などと安らかな状態でお別れしてほしい、というご遺族の思いや、ご遺族が海外にいてすぐに帰ってこられない、ご遺族に陽性者・濃厚接触者がいて参列を希望しているため隔離解除期間を待ちたい、というご遺族側のご事情にもエンバーミングはおこたえできます。
エンバーマーと似た職業として、納棺師が挙げられます。
どちらも故人様・ご遺族双方にとって良いお別れをサポートする職業ですが、出来ることとその方法が異なります。
エンバーマーは、ご遺体の科学的なケアも行うことができるので、お着替えやお化粧の他にも傷跡の修復や防腐等も行って、ご遺体のお手当てを総合的にします。
対して納棺師は、納棺や湯灌の儀式を目的に、お化粧や着付けで身だしなみを整え、納棺まで見届けます。
エンバーミングは防腐や修復のために小切開等お身体に手を加える手順がありますが、納棺師はお身体の表面的なお手当てなので、お身体に手を加えることなくきれいします。
また、納棺師には資格が不要なことも違いの一つです。
目的 ご遺体の状態を衛生的に「保つ」こと
タイミング きれいな状態で弔問客に会っていただくため事前に行う
方法 専用の機器や薬品を用いて体の内部から保全処置をする
場所 専門的な設備の整ったエンバーミングセンターで行う
できること 修復、保全処置、化粧、洗髪、整髪、着せ替え
専門資格 IFSA認定資格が必要
目的 ご遺体の身支度を美しく「整える」こと、
タイミング 家族と一緒に納棺式の一環として行うため通夜当日に行う
方法 納棺式という儀式を通じて、安らかな表情や見た目にする
場所 葬儀場やご自宅で行う、家族が一緒に立ち会える(手伝える)
できること 化粧、洗髪、整髪、着せ替え
専門資格 資格不要
今後ますます需要が高まるであろうエンバーミングの現場には、エンバーマーの存在が不可欠です。
IFSAはこの需要増加を見込み、エンバーマー資格の国家資格化も進めているようです。
国家資格化が現実となり、エンバーミングを担う人材が確保できれば、施術を希望するすべての人が早期に利用できるようになるかもしれません。
作成者:エンバーミング事業室・マネージャー
稲部雅宏