エンバーミングとは、お身体の腐敗を防止したり修復したりするために行う処置を言います。
土葬文化の国では一般的ですが、日本は火葬文化であるためいまだ広くは普及していません。
エンバーミングがどのようなものなのか、よく知らないという人も多いでしょう。
エンバーミングには故人の身体を清潔に・美しく保てるというメリットがあるとはいえ、施術に抵抗がある方や費用の面で心配がある方にとっては、簡単に決断できるものではありません。
実際にはエンバーミングがするべき場合とそうとは限らない場合どちらもあり得ます。
今回は、具体例やチェックポイントをご紹介しながら、エンバーミングをするべきタイミングについて解説します。
後悔のないお別れのために、ご自身の状況と照らし合わせ参考にしてみてください。
目次
エンバーミングは、エンバーマーと呼ばれる専門スタッフが行う消毒・殺菌・防腐処置のことです。
体内に残っている血液と保全薬を入れ替えることでご遺体を長期的・衛生的に保全し、きれいな姿や表情を保つことができます。
それだけでなく、事故などで激しい損傷を負ったご遺体の場合、きれいで自然な状態に近づける修復処置を行うこともあります。
故人を生前の姿に近づけられることから、遺された家族のグリーフケア(=別れに対する悲しみを癒すためのケア)にもつながる技術です。
エンバーミングが必要になるのは以下の場合です。
①亡くなってから火葬するまで日程が空いてしまう
②ご遺体を海外輸送する
③元気だったころのきれいな姿の故人とのお別れを希望している
④故人が感染症で亡くなった
具体的に見ていきましょう。
遠くに住む親族が来るのを待ちたい、ゆとりある日程で葬儀を営みたい、葬儀場や火葬場が混み合っているなどの事情により、亡くなってから火葬するまで日程が空いてしまう場合はエンバーミングをするべきと言えます。
長期保全でご遺体の腐敗や顔色の悪化を防ぐことができるためです。
また、日数比例で費用が増すドライアイス・保冷庫保管による安置に比べて費用を抑えられます。
海外で亡くなった方が日本で葬儀を行う場合、輸送の際にはエンバーミングを受けていなければなりません。
安全上の観点から、機内にはドライアイスを持ち込むことができないためです。
もちろんこれは、日本で亡くなった方を海外へ輸送する場合にもいえます。
長い闘病生活でのやつれや事故などで負った損傷など、様々な変化をできるだけ修復することで、対面する家族や親戚、友人の悲しみを和らげることができます。
実際に施術を選ばれた方からは、「眠っているような自然な表情に驚いた」「会葬者にも生前と同じような面影の故人と再会してもらえた」という声が挙げられています。
故人の表情が元気だった頃と大きく変わっていると、お別れの際のつらさが増してしまうため、穏やかなお別れの時間を過ごしたい方は、エンバーミングをするべきと言えます。
結核などの感染症にかかったご遺体であっても、エンバーミングによる消毒・殺菌処置後は公衆衛生上安全になります。
その結果、免疫力の弱いお子さまやご年配の方も安心してご遺体に触れることができ、十分なお別れの時間を持てるようになるのです。
通常のご葬儀に近い形でのお別れが可能となるため、感染症で亡くなった故人と対面してお別れを希望する場合エンバーミングは必須でしょう。
一方で、エンバーミングの必要性が低いのは以下の場合です。
①亡くなってから火葬するまで日程が空かない
②費用面に不安がある
③ご遺体に傷をつけることに抵抗がある
具体的に見ていきましょう。
亡くなってから時間を置かずに火葬できる場合は、長期保全の必要がないためエンバーミングをする必要性は低いです。
数日程度の安置であれば、ドライアイスや保冷庫だけでも目立った変化が起こらない方もいらっしゃいます。
ご遺体の見た目を整えるのに化粧や着替えの処置のみで十分と思った時には、葬儀社や湯灌業者による手当てにとどめても問題ありません。
ただし、ご遺体の変化のスピードには個人差があり、一概に何日間以内ならエンバーミングは不要、と言い切れないのが現状です。
エンバーミングの基本料金の相場は約15~25万円です。
一般的に施術費や着付け・お化粧代がこの基本料金にあたりますが、これに加えて、病院とエンバーミングセンター間のご遺体の搬送費や施術までの安置費、損傷の具合による追加費用などが別途必要となることがあります。
当然、ご葬儀そのものにも費用は掛かるため、状況や予算によってはエンバーミングを選ぶことが難しい場合もあるでしょう。
エンバーミングはあくまでオプションサービスとして考え、総合的にかかる費用をもとに検討することが必要です。
エンバーミングのデメリットのひとつに、遺体を小切開しなければならない点があります。
血液・体液を排出したり保全液を注入したりするためにやむを得ない工程ですが、なかには故人様のお身体に手を加えることに抵抗を感じる方もいらっしゃるでしょう。
エンバーミングを受ける本人も交え、生前から親族内で話し合っておくことも後悔しないための方法のひとつです。
エンバーミングを行わない場合、それに代わるお手当てがいくつかあります。
目的別に詳しく見ていきましょう。
ご遺体を保全する方法には、ドライアイスや保冷庫があります。
どちらもエンバーミングと比較すると保全効果は劣りますが、これらの費用相場は1日あたり約1万円なので、日数がかからない場合は費用を抑えられることがメリットになります。
また、保冷庫については、1年中温度を一定に保てる点もメリットとなります。
一方で、ドライアイスを用いると当てている部分が凍って痛々しい見た目になってしまう、保冷庫で安置すると面会時の条件が厳しい(面会時間に柔軟性がない、職員の立ち合いが必須など)というデメリットが挙げられます。
ご遺体の見た目を整える化粧や着替えは、エンゼルメイクや湯灌で代用できます。
エンゼルケアとは、故人に対して行われる「死後処置」もしくは「死後ケア」のことです。
一般的には医療従事者、もしくはそれに準じるスタッフが病院や施設、ご自宅で行います。
湯灌とは、故人の体を洗って清める儀式のことで、ぬるま湯でお体を清めた後、着替え・お化粧を行います。
衛生上の理由でお身体をお拭き取りするだけでなく、故人の生前の疲れや悩みを洗い流すという宗教的な意味も持っています。
湯灌師や納棺師、もしくは葬儀従事者がご葬儀の場において行います。
これらの目的はご遺体の腐敗を防ぐことではないため、ドライアイスなどによる処置は必要です。
しかし、小切開することはないので、お身体を傷つけることに抵抗がある方にとっては良い方法であると言えるでしょう。
感染症で亡くなった方に対してエンバーミングをしない場合、ご遺体を衛生的に保全できる代替サービスはありません。
体液漏れがないよう処置をしっかり行ったうえで、納棺をして直接接触しないよう自分自身で気を付ける必要があります。
お顔に触れるなど通常のようなお別れのかたちは難しくなるため、ご遺体に触れてお別れがしたい方はエンバーミングをした方がよいでしょう。
エンバーミングは故人と過ごす最後の時間を一番きれいな形で記憶に残すことができます。
ご遺体が腐敗してしまう可能性がある、元気だったころのきれいな姿の故人とのお別れを希望している、という場合には必要となりますが、ときにはその必要性が高くないこともあります。
エンバーミング以外にも家族がもつ選択肢は様々あり、目的ごとに代替できるものがあります。
ただし、それらでは基本的に衛生的かつ長期的な保全はできないため、それぞれが持つメリットやデメリットを正しく理解しておくことが大切です。
納得の上で後悔のない最良のお別れが叶うよう、ご自身の状況を踏まえ周囲の人とよく話し合って検討してみてください。
■エンバーミングが必要な場合
・亡くなってから火葬するまで日程が空いてしまう
・ご遺体を海外輸送する
・きれいな姿の故人を見送りたい
・感染症で亡くなった故人と触れ合ってお別れしたい
■エンバーミングをする必要がない場合
・亡くなってから火葬するまで日程が空かない
・費用面に不安がある
・ご遺体に傷をつけることに抵抗がある
■エンバーミングを行わない場合のご遺体保全
メリット | デメリット | |
---|---|---|
ドライアイス | 日数によって費用が抑えられる | ご遺体に触れている部分に霜が降り見た目が痛々しくなる |
保冷庫 | 通年で温度が一定に保たれる | 職員の立ち合いのもと限られた時間内での面会となる |
■エンバーミングを行わない場合の化粧・着替え
・エンゼルケア…医療従事者などが病院や施設、ご自宅で行う死後ケア
・湯 灌…湯灌師や納棺師、葬儀従事者がご葬儀の場において行う、故人の体を洗って清める儀式
作成者:IFSA認定スーパーバイザー
稲部雅宏